犬矢来 ―繊細で美しい日本の心―

こんにちは。

昔ながらの日本建築って素敵だと思いませんか?

私の個人的なイメージとしては、実用性がありながらもとても繊細で美しい、そんな存在です。

細部のディティールの美しさというのがありますが、一つの特徴として曲線があるのではないかと思っています。

例えば軒の曲線はその代表格だと思います。

「軒反り」や「犬矢来」といった伝統的な和風建築に見られる造形。

それらには共通して美しい曲線が描かれているのでした。

アポアの手掛けた彦兵衛松阪店のデザインにも採り入れた犬矢来についてのお話です。

三十三間堂の軒反り

お寺などの軒を見ると、水平ではなく、端の方が持ち上がって反っているのが分かります。

入母屋造りの屋根は外壁から外側に張り出した軒がありますが、四隅の部分は壁から直接支えることが出来ません。

四隅の部分の屋根の重みは、「隅木」という部材が支えています。

簡単に想像が付くと思いますが、この隅木にはかなりの重みが、それも継続的にのしかかります。

つまり隅木は、重みによって垂れやすいのです。

隅木が垂れると屋根が崩れる危険もありますし、なんといってもみすぼらしく見えてしまいます。

その対策として採用された手法が「軒反り」でした。

隅木を予め他の軒部分よりも持ち上げて造っておくのです。

それが、お寺の屋根などに見られる美しい軒の曲線を生み出しています。

しかし現在の木造建築で軒反りを見ることは殆ど無いと思います。

そもそも入母屋造りの様に隅木がある屋根形状を採用することが少なくなっているように感じられます。

さて、前置きが非常に長くなってしまいました。

先日紹介した「彦兵衛」さん。(住宅ではないですが)

そこでも日本の伝統的な曲線美が使われています。

それが「犬矢来」です。

犬矢来は京都の町屋によく見られるもので、建物外壁の足元、腰の高さくらいまでをカバーした構造物です。

多くは割り竹で作られ、その材料特性を生かして曲線で作られたものが代表的です。

ただ中には直線的なものや、金属など竹以外の材料で作られたものもあります。

これはとても美しい造作物ですが、やはり実際的な意味がある物です。

京都の町屋などで見られる犬矢来
彦兵衛松阪店で使われた犬矢来。看板を照らす光が犬矢来をも同時に照らしています。

矢来というのは「遣らい」の当て字だそうで、その意味は「追い払うこと」。

犬矢来は、犬のマーキングや泥ハネなどで建物の足元が汚れたり、それが元で痛んで腐ったりするのを防ぐために設置されたものといわれています。

京都は歴史的に「外敵」の侵略が多かったことから、防犯上の役割もあるのだそう。

雨の日に雨宿りを装って軒下に入り内部の話を盗み聞くのを防ぐ、というのがその一つ。

他にも浮浪者が軒下に安住できないようになど、道路と敷地の境界を明確にして、軒下に部外者が近づくのを防ぐ意味があるということなんですね。

また、ハレの時にだけ使用する折り畳みの縁台を目隠しするため、ということもあるそうです。

これは現代でも、室外機の目隠しにしたりと活用されていますよね。

彦兵衛さんでは足元の明り取りを目隠しするのに採り入れてありました。

犬矢来の中に照明を仕込んでアプローチライトにしたりなど、このお洒落な装置をどこかで採り入れてみたいと思う、今日この頃です。

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